壮年ふぇぶの悩み キンモクセイ
どーにも言いにくいし書きにくいし、理解されないだろうということはよく分かっているのだけど・・・
現在進行形で、開けている窓から漂ってくるキンモクセイの香りがある。
この借家のすぐそばの、大家さんの敷地にそれはそれは大きなキンモクセイの木があるからだ。
橙色の、小さくてかわいいキンモクセイの花。甘くていい香り。
いい香りだなあ、秋だなあ、好きだなあ、と思った直後に、死にたくなるのだ。
全く理解できない。なぜ??
アタマの回路のエラーか。いくらなんでも変。
辛いできごとは数えきれないほどあって、自然とそう思うことはあるにしても、キンモクセイの香りがいきなりそう繋がるのは解せない。
これを認識したのは小学4年くらいのときだったか。
夜、自分の部屋の窓の外が真っ暗なころ、なんとなく網戸にしてキンモクセイの香りがしたときにそう思ったんだな。
あまりにも唐突、荒唐無稽。理屈もへったくれもあったもんじゃない。
秋がくるたびにキンモクセイの香りはするから逃れようがないのだけど、特にキンモクセイの香りを堪能せざるを得なかったのは、中学生のころ喘息が悪化して数日入院したとき。
医療費がかかることを母親に延々と言われるのを危惧して大部屋でいい、と言ったけど空いているからという理由で個室になった。
その個室の窓の向こうには、キンモクセイの木があったんだな。
窓を自分で開けた記憶はないのだけど、強烈なまでにキンモクセイの香りがたちこめていた。
喘息特有の咳をしながら、このまま死ぬのかなあ、と思った。
(実際苦しいけど)おおげさな音を立てる咳をしているときのほうが、もっともらしい理由があるからまだマシだった。
明け方に、小さいこどもの泣き声とそれをあやす大人の声を聞いて(ホラー!?現実だよね!?)と思ったり、薬の副作用で手が震えて字が書きにくいということを知ったり、差し入れてもらった本が好みでなかったり、貴重な入院体験であった。
退院するときになっても、キンモクセイの香りはあの部屋にずっと漂っていた。
思うことも、やっぱり変わらなかった。
頭が混乱する、理にかなっていない変な感情である。
困るっちゃ困るけど、どうにかできるものでもない気がする。お医者さんに聞いたところで分からないだろうし、秋にしかこうならないのだから季節性のトラブルとでも思っておけばいいのかな。なんかあんまり触れないほうがいいような気もする。
いい匂いなのに!